何気ない日常に潜む深淵 第2話 実録

第2話|運用開始から10日

― 期待と評価期間 ―

こうして我が家へ正式配備された初号機。

健康改善計画の象徴であり、歯医者通いを経て誕生した本気の一本である。

いつも使っていた、とりあえずまとめ買いしていた安物の歯ブラシを早々に廃棄し、パッケージを開封する瞬間の意気込みは、今でも感覚として残っている。

買うまでは準備であり、まだ引き返すという退路も残されている。

開封に手をかける。

本気の運用とは、ここから始まるのである。

運用開始から数日が経過した。

最初は正直なところ半信半疑だった。

今思えば、その「疑」の文字の奥には、未知なる体験への期待も潜んでいたのかもしれない。

「所詮、歯ブラシなど、どれを使っても大差ない」

昔の私はそう考えていた。

若気の至りというか、品質へのこだわりや感謝、生産者への敬意が欠けていた、若き故の過ちというものか。

だが、実際に使い始めてみると、本当に意外なものだった。

まず毛先の感触。

そう、歯と歯ぐきへの当たり具合が違う。

その紛れもない事実が、私の感覚神経を直撃した。

歯ぐきへの当たり方が柔らかい。

かといって頼りない訳ではない。

適度なコシがある。

何と言うべきだろう。

「ちょうどいい」では物足りない。

「フィットする」では言葉足らず。

そんなもどかしい気持ちになる。

そしてヘッド部分のサイズ感。

奥歯まで入りやすい。

奥歯のさらに奥。

そして前歯の裏側の根元まで伝わるこの感触。

磨き残しも減った気がする。

今まで以上に時間が溶けていった気もする。

もちろん気のせいかもしれない。

しかし、そう思える事自体が大切なのである。

健康改善とは、案外そういうものだ。

ドラマチックなものではない。

劇的な変化も起きない。

魔法のような効果もない。

ほんの些細な日常の延長線である。

そのささやかな積み重ねを、本人が実感できるかどうか。

それが継続の分かれ道になる。

継続は力なり。

言葉にすると単純だ。

だが、こうした小さな積み重ねの中から生まれてきた言葉なのかもしれない。

その意味では、初号機はなかなか優秀だった。

毎朝手に取る。

毎晩手に取る。

歯を磨く。

すすぐ。

元の位置へ戻す。

そんな当たり前の日常が繰り返されていく。

たったそれだけの話だ。極々日常のワンシーンである。

しかし、人間というものは不思議なもので、少し気に入った道具があるだけで、日常の面倒な作業が少しだけ楽しくなる。

気分も変わる。行動も変わる。習慣も変わる。

それが道具の持つ力なのかもしれない。

情が移るという表現も、あながち間違いではない。

気付けば運用開始から10日ほどが経過していた。

評価としては上々。

少なくとも、買って失敗したという感覚はない。

むしろ、

「なかなか悪くないな」

「期待が持てる」

「上手く使えるように、今度は俺が角度と力加減を学ぶターンかな」

そんな印象だった。

価格を考えれば十分満足である。

このまま長く付き合っていく事になるだろう。

そう思っていた。

少なくとも、

その事件当日の朝までは。