目の前の絶望感に抗いたく、しばらく考えていた。
紫色の相棒は確かにそこに居る。
僅かだが確実に視界に入っている。
生存も確認した。
だが、具体的な救出手段がない。
幾度も幾度もその現場を目にしながら――。
角度を変えた。
手を伸ばした。
道具も考えた。
だが状況は一向に変わらない。
見える。確実に視界にとらえている。
しかし何をもってしても触れることすらできない。
……届かない。
手の施しようがない。
無残な現実だけが静かに存在していた。
息をのむような暗闇の奥に、僅かな紫色の姿を残したまま――。
数時間後。
私は再びドラッグストアへ向かっていた。悲しみともどかしさを抱えながら……。
理由は単純である。歯は毎日磨かなければならない。
毎日のルーティンという己の脳内規則に沿った神事である。
どれだけ名残惜しくても、どれだけ悲観に暮れても、現実は何事もなかったように流れていく。
ストアの片隅に所狭しと並べられた商品群。
見慣れた棚。見慣れた価格表示。そして見慣れた商品。
あの時の光景が既視感として再現されている。
ただ――あの時に感じた期待感や高揚感だけが、そこには存在しなかった。
私はほんの一瞬だけ考えた。
別の機種にするべきか。性能重視で選ぶべきか。
確かに迷いはした。
だが、やはり購入前から結論は決まっていた。
同メーカーの同種同型機採用。
通称「二代目」着任。
色だけは違った。
初号機は紫。二代目は赤。それ以外はほぼ同じ。
まるで後継機のようだった。
数時間後に帰宅。
脳内から送られる神事の囁きへの対応を終え、私は置き場所を変更した。
「初号機」と同じ悲劇を繰り返さないためだ。
痛手を被り、悲観と絶望の淵に立たされ、学習し、なお改善し。
再発防止と恒久的対策。
長らく人類というものは、こうして文明を築いてきたのである。
たぶん……w
俺自身の決意と思いを一心に受け止めた「初号機」は失われた。
その事実は今も何一つ変わらない。今もあの場所に居る。
だが、「初号機」が残したものは、俺の心の中に今もなお残っている。
歯を大切にしようという心からの決意。
毎日続けるという飽くなき反復習慣。
そして、妙な愛着を持てた、「奇跡」という名の僅かな時間。
物は失われる。
だが、意思は残る。
だからこれは代替ではない。
継承である。
こうして「二代目」の運用が静かに始まった。
至って順調である。
そしてこの物語は、最後の旅立ちへ向かう。